襲 われる 夢。 全てがオススメ!動物別アニマルパニック映画一覧(41種262作品)

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襲 われる 夢

キャプション必読お願いします。 いつも応援してくださる皆様、ありがとうございます。 全作「二人の関係」が、なんとブックマーク500を超えまして…喜びと共に、こんな駄文に、と恐縮しております。 本当にありがとうございます。 今回の話ですが、長いです。 一作の長さは、過去最長かと…。 しかも、まだ続くという。 後編も既に出来上がっておりますので、内容をチェックしましたら、すぐに出せるかと思います。 今回は、白石先生ストーカーに狙われる、です。 色んな書き手様が書かれてきたシチュエーションではあると思いますが、自分なりに考えて書きましたので読んでいただけると嬉しいです。 全ての作品に目を通せている訳ではありません。 何かお気付きの事がありましたら、ご連絡下さい。 いつも、いいね、ブックマーク、コメント、フォロー等頂きまして、ありがとうございます!! 「ちょっと、藍沢いる?!」 脳外科医局のドアを乱暴に開け、穏やかとは言い難い声色で藍沢を尋ねてきた一人の女性。 医局にいた医師達は、一斉に声のする方を見た。 そこには、華奢な身体に怒りのオーラを漲らせた緋山が仁王立ちしていた。 医局でパソコンに向き合っていた新海は、何事かと目を瞠らせながら緋山に声を掛けた。 「緋山先生、お久しぶりです。 どうかされましたか?藍沢なら、西条先生とオペに入ってますが…。 」 その答えを聞き、チッと舌打ちした緋山の様子を見て、これはただ事ではないなと察した新海が、更に言葉を重ねる。 「そろそろオペも終わる頃だと思いますが…良ければコーヒーでも飲んで待ちませんか?ちょうど僕も休憩に入ろうと思ってましたので。 お付き合い頂けます?」 にこやかに言う新海に、やや気勢を削がれたのか、緋山は素直に頷いた。 「…そうですね。 では、そうします。 」 少し落ち着いた様子の緋山に、新海はホッと胸を撫で下ろした。 緋山をソファへと案内すると、コーヒーを淹れて手渡す。 「…ありがとうございます。 頂きます。 」 新海は笑顔で緋山に応えると、自らもソファに腰掛けてコーヒーを一口飲むと、緋山に話し掛けた。 「それで、今日はどうされたんですか?藍沢に随分お怒りのようですが…。 もしかして、ここ最近アイツの機嫌が悪いのと関係あります?」 新海の言葉に、緋山が眉を上げる。 「藍沢の機嫌が悪い…?」 訝しげにつぶやいた緋山に、新海は困ったような笑顔で答えた。 「えぇ。 二週間程前から。 勿論、仕事はきちんとしてます。 だが、それ以外の時はとにかく話し掛けるなオーラを出していて…。 フェローへの指導もいつも以上に厳しいので、フェロー達が僕に泣きついてくるんで困ってるんですよ。 」 新海がそう言うと、緋山はじっと考え込んだ。 [newpage] しばらくすると、医局のドアが開きオペを終えた西条と藍沢が戻ってきた。 緋山に気付いた西条が声を掛ける。 「おぉ!! 久しぶりだなぁ~。 元気にしてるか?どうだ、周産期センターの医局長は。 」 緋山は、西条ににこやかな笑顔を見せる。 「西条先生。 オペお疲れ様でした。 そうですね。 上に立つっていつのは、やはり大変ですね。 」 緋山の言葉を聞いた西条は、ニヤリと笑いながら答える。 「ははは。 そうだろうな。 俺や橘、白石の苦労がちょっとはわかったか~?」 緋山は、苦笑しながら答えた。 「えぇ、それはもう。 」 「そうか、まぁお前なら大丈夫だろう。 頑張れよ。 …ところで、今日はどうしたんだ?」 西条の問い掛けに、緋山はにっこり笑って答える。 「今日は、藍沢に用事があって。 すみません、西条先生。 ちょっと藍沢お借りしてもいいですか?」 そう言って緋山は、我関せずとばかりにさっさとデスクに座ってオペ記録を纏めていた藍沢の方をジロリと睨んだ。 こりゃ、白石絡みで何かあったな…と、見当を付けた西条は 「あぁ、構わんぞ。 藍沢、休憩行ってこい。 」 その言葉にさっと立ち上がった緋山は、藍沢の元へとズカズカと歩み寄る。 「だそうよ、藍沢。 ちょっと顔貸しなさいよ。 」 緋山は、怒りを隠そうともせず言い放った。 対する藍沢も不機嫌な顔をして緋山を睨んだが、上司命令とあっては仕方がないと溜め息をつきながら立ち上がり、さっさと医局を出て行った。 緋山もその後に続くと、ドアの前で振り返り、ペコリと頭を下げた。 「お騒がせしました。 失礼します!! 」 二人が出て行った後、新海が西条に尋ねた。 「藍沢のヤツ、何やらかしたんですかね?」 すると、西条が呆れたように言った。 「さぁな。 だが、緋山があれだけ怒ってるって事は、恐らく白石絡みだろ。 全く、あいつらはいつになったら纏まるんだろうなぁ。 」 「そうですね。 藍沢、素直じゃないからなぁ。 」 二人は、顔を見合わせると思わず苦笑を溢した。 [newpage] 藍沢はズンズンと緋山の先を歩き、人気の少ない場所へと来ると立ち止まって振り返った。 不機嫌を隠そうともせず、ぶっきらぼうに言い放った。 「何の用だ。 俺は忙しい。 」 そんな藍沢に怯むこともなく、緋山は藍沢を睨み上げる。 「藍沢。 あんた、最近白石と話した?」 藍沢は、益々眉間に深く皺を寄せる。 「答える義務があるか?」 「…あるわ。 あんた、最近白石から何か相談されなかった?」 緋山の言葉に、訝しげに眉を上げた藍沢が呟く。 「…相談?」 「そう。 何も聞いてないの?」 そう言われた藍沢は記憶を辿る。 そして、ハッとした。 「その顔だと、何か思い当たる節があるみたいね?」 すると、藍沢は途端にバツの悪そうな顔になる。 「相談されたというか…一週間ほど前に、白石に聞いてほしい話があると声を掛けられた。 」 藍沢は、その時の事を思い返し、苦い思いが込み上げてきた。 二週間前、ICUへと患者の様子を見に行った藍沢は、スーツを着た男性と話す白石を見掛けた。 近くを通る際に、二人の会話が聞くともなしに聞こえてきた。 「なぁ、恵。 今日は飯行ける?」 藍沢は、白石に親しげな様子で話し掛けるその男に驚いた。 「えぇ?無理だよ。 」 よく知った仲なのか、白石の方も砕けた口調で話している。 白石は、こちらに背を向けているため表情はわからないが…男の方が白石に好意を抱いているのは明らかだった。 藍沢は、沸いてくる苛立ちをグッと堪えながら、早足でその場を通り過ぎた。 それから時間が経つに従って、藍沢の思考は悪い方へと転がっていく。 もしかして、あいつは白石の恋人なのだろうか。 下の名前で呼んでいたし、明らかに親しげな様子だった。 白石の隣に立つのは自分でありたいと願ってきた癖に、一歩を踏み出せずにいたせいで、あいつは既に誰かのものになってしまったのだろうか。 そんな風に悶々と考え込む日々が数日続いた頃だった。 偶然ヘリポートで出くわした白石に、「聞いてほしい話があるの。 」と切り出されたのだった。 …あの男との交際を報告でもされるのだろうか、もしくは恋愛相談でもする気か? そんな話を聞かされるのはゴメンだ。 嫉妬心に苛まれた藍沢は、白石に尋ねた。 「…仕事の話か?」 すると、白石は困ったように眉を下げ口ごもる。 「ええと…。 仕事の話じゃ、ないんだけど…。 」 それを聞いた藍沢は、冷たく言い捨てた。 「仕事以外の話を聞くほど暇じゃない。 他を当たれ。 」 藍沢に言われてハッと息を飲んだ白石は、俯くと唇を噛み締めた。 「そっ、そうだよね…。 ごめんなさいっ。 」 そして、藍沢が声をかける間もなく、立ち上がると走り去ってしまった。 その背中を見ながら、藍沢は自らの発言を後悔したが、その場に縫い付けられたように足が動かず、結局後を追うこともできなかった。 [newpage] 緋山は、黙ったまま考え込む様子の藍沢に向かって口を開いた。 「あんたと白石の間に何があったのかは知らない。 けど、あんたは相談を持ち掛けようとした白石の話を聞いてやることはしなかったって事よね?」 「…。 」 黙ったまま何も答えない藍沢に向かって、緋山は更に続ける。 「白石には、あんたには黙っててくれって言われたんだけど。 」 そこで言葉を切ると、はぁっと溜め息をついた緋山は衝撃的な一言を投げ付けた。 「白石が男に襲われた。 」 その言葉に、藍沢はバッと顔を上げた。 「…何だと?!白石は?!無事なのか?!」 明らかに動揺しながら緋山に詰め寄る藍沢に、緋山は冷たい顔をして言い放つ。 「あんたには、関係ない。 あんたは、白石の話を聞こうともしなかったんでしょ?だったら、これ以上はあんたに教える義理はないわ。 」 緋山は、呆然とする藍沢に背を向けると、用は済んだとばかりに立ち去ろうとした。 ハッと我に返った藍沢は、慌てて緋山の後を追い、声を掛ける。 「…緋山、頼む。 教えてくれ。 あいつに、何があった?襲われたって…無事なのか?」 必死に懇願する藍沢に、緋山は足を止めると振り返る。 その瞳は、怒りに満ちていた。 「…白石、ストーカーに遭ってたのよ。 」 「…ストーカー?」 「そう。 このひと月ぐらい。 誰かにつけられてるような気がしたり、郵便物を漁られているような形跡があったり。 勿論、警察にも相談したけど具体的に何か被害があった訳じゃないし今は動けないって言われたって。 」 緋山は悔しそうにグッと拳を握り締めた。 「あたしが白石に相談されたのは二週間前。 話を聞いて危ないと思ったから…白石に、藍沢に事情を話して、勤務が重なる時だけでも一緒に通勤してもらうよう頼めって言ったの。 あたしは、今は職場も違うし家も離れてる。 何かあってもすぐに駆け付けたり一緒に帰ってあげる事もできない。 …白石は、はじめはあんたに迷惑をかけることはしたくないって言ってた。 けど、あたしが何とか説得して、白石もやっと納得したの。 」 そこで、緋山はふぅっと息をついた。 「何より…あんただったら、絶対に白石を守ってくれると思ってた!! 白石から相談されて、話すら聞いてやらないだなんて、思ってもみなかった。 あんたは、誰よりも白石を大切に想ってると思ってた。 けど、あたしの見込み違いだったみたいね。 」 緋山の口から語られる事実に、藍沢は呆然とした。 …白石が、あの時自分に話そうとしていたのはこの事だったのか。 どうして、きちんと話を聞いてやらなかったんだろう。 いくら緋山に言われたとはいえ、他人に頼ることを極力避けようとするあいつが、俺に頼ろうとしたという事は、余程追い詰められていたに違いない。 そんな白石の事を、俺はくだらない嫉妬心の為に冷たく突き放した。 藍沢は、片手で顔を覆い俯くと呟いた。 「…俺は、最低だな。 」 その言葉に反応した緋山が口を開く。 「そうね。 …どうして、いつもなら誰よりも優先して聞くはずの白石の話を聞いてやらなかったのよ。 白石が自分から誰かを頼るなんて、よっぽどの事だってわかってるでしょ?!」 こちらを見ながら怒る緋山の目は、潤んでいた。 「…すまない。 」 藍沢は項垂れて謝罪することしかできなかった。 「…それは、あの子に直接言ってやって。 白石、救命の仮眠室にいるから。 昨夜、めぐり愛から歩いて帰る途中に、男に路地に連れ込まれそうになったらしい。 けど、人が通りかかったから、相手は逃げていった。 必死に抵抗して転んだせいで擦り傷はできてるけど、大きな怪我はないわ。 …ただ、精神的にかなり参ってる。 家にも帰れなくて昨日からずっと病院にいる。 様子がおかしい白石を心配した三井先生からあたしに連絡が来て、さっき何とか本人から事情を聞きだしたの。 今は、無理矢理仮眠室に放り込んで点滴打って眠らせてる。 」 緋山の言葉に、藍沢はバッと顔を上げた。 「…緋山。 ありがとう。 」 「あんたの為じゃないから。 白石の為よ。 犯人は、まだ捕まってない。 警察には届けたけど、相手はサングラスとマスクをしてて、顔はわからなかったそうよ。 …白石の事、頼んだわよ。 」 藍沢は、大きく頷くと救命医局に向かって駆け出していった。 その背中を見送りながら、緋山はボソッと呟いた。 「ほんっと、手がかかるわ。 」 [newpage] 藍沢が救命の医局へと足を踏み入れると、そこには橘と三井がいた。 「…失礼します。 」 藍沢の声に、二人は一斉にそちらを見た。 「よぉ、藍沢。 お疲れ。 」 橘に声を掛けられ、藍沢は頭を下げる。 「…お疲れ様です。 」 だが、三井ははぁっと溜め息をつくとジロリと藍沢を睨んだ。 「…何の用?コンサルを頼んだ覚えはないけど。 」 三井に低い声で言われ、流石の藍沢も怯む。 恐らく、緋山から既に話がいっているのだろう。 藍沢が、何と答えるか躊躇していると、橘が声を掛けた。 「まぁまぁ、そう言うなよ。 白石が心配で飛んできたんだろ?」 三井は、今度は藍沢をフォローする橘を睨むとピシャリと言い放つ。 「貴方は黙っててちょうだい。 」 三井に凄まれた橘は、降参とばかりに両手を挙げると口をつぐんだ。 そんな橘にチラリと目を遣ると、三井は徐に口を開いた。 「…昨夜、私が当直で医局にいたら、数時間前に帰ったはずの白石が真っ青な顔で現れたの。 手足に怪我はしてるし、服も汚れてる。 ただ事じゃないと思って、何があったのか問い詰めたの。 」 藍沢は、ぐっと拳を握り締めながら黙って話を聞いていた。 既に知っているのだろう、橘も何も言わなかった。 「…でも、何も言わないのよ、あの子。 転んだだけ、大丈夫だからの一点張り。 そのまま、やり残した仕事があるのを忘れていたから、ってさっさと着替えて、仕事し始めちゃったの。 医局でひたすら書類仕事に没頭してたわ。 途中、急患や急変の処置にも入ってた。 今日は、午後からの出勤のはずなのに昨夜から仮眠も取らずに働き続けて。 いくら休めって言っても聞かないから、困って緋山に連絡したの。 」 「そう…ですか。 」 それまで黙っていた橘が口を開く。 「当直明けの緋山が飛んできて、白石を仮眠室に無理矢理連れ込んで話を聞き出した。 それから、有無を言わさず白石をベッドに放り込んで、点滴を打ってやっと眠らせたんだ。 」 その後を三井が引き受ける。 「緋山が聞き出した話によると、食事を終えて帰宅途中で突然背後から羽交い締めにされて、路地に連れ込まれそうになったそうよ。 必死に抵抗していたら、たまたま人が通りかかって…男は逃げていったらしい。 …その後、あの子はたった一人で交番に行き、自分で警官に事情を説明したそうよ。 怖かったでしょうに…。 」 そこまで言うと、三井は目を伏せた。 「向こうも仕事とはいえ、あれこれと根掘り葉掘り聞かれたはずだ。 怖い思いをしたばかりなのにな。 あいつの事だ、気丈に振る舞って受け答えしただろう。 だが、やはり怖くて家にも帰れず…ここに来るしかなかったんだろうな。 」 三井はうっすらと涙を浮かべている。 「そうね…。 眠るのも怖いから、ひたすら仕事し続けてたのね、きっと。 それなのに、誰にも言おうとせずに。 緋山も、話を聞き出すのにかなり苦労したらしいから…。 」 藍沢は唇を噛み締め、自分の愚かさを呪うしかなかった。 もし、自分があの時話を聞いてやっていたら…白石を一人になどしなかった。 自分が一緒に居てやれれば、白石に怖い思いをさせる事もなかったはずだ。 悔やんでも悔やみきれないが、後悔ばかりしていたところで、己の失敗が取り返せるはずもない。 今後は、絶対に自分が白石を守る。 そう心に決めて、藍沢は橘と三井の方に向き直る。 「もう二度と、白石をこんな目に遭わせません。 必ず、俺が…守ります。 」 藍沢の言葉に橘はニヤリと笑う。 「ほぉ、言うねぇ。 あのクールな藍沢の言葉とは思えないな。 …しっかり守ってやれ。 勿論、俺達も出来る限りの事はする。 」 三井もふっと笑みを溢した。 「…今度、あの子を泣かすような事があれば、許さないわよ。 」 藍沢は、しっかりと二人の顔を見て頷いた。 「はい。 」 そして、藍沢は仮眠室へと足を向ける。 そこに、背後から三井の声が掛かった。 「さっき、やっと寝たところだから…薬も入れてるし、あと2時間は起きないと思う。 …帰りは勿論、送っていってくれるのよね?」 藍沢は振り返って答えた。 「…はい。 白石が起きたら、俺が来るまでここで待つように言ってください。 」 橘がニカッと笑って答える。 「おう、任せとけ。 」 藍沢は、二人に軽く頭を下げると今度こそ仮眠室へと足を踏み入れた。 仮眠室のベッドでは、青白い顔をした白石が点滴に繋がれて眠っていた。 その白い頬には、小さな擦り傷ができていた。 藍沢は、ベッド横の椅子へと腰掛けると、白石の手をそっと握る。 「白石…。 ごめんな…。 」 久しぶりに見る白石は、少し痩せたように見える。 恐らく、ずっと独りきりでストーカーへの恐怖と戦っていたのだろう。 恐る恐る、白石の手を握っているのと反対の手を伸ばし、白石の髪を優しく撫でる。 するすると何度か撫でてやると、心なしか白石の表情が和らいだ気がした。 藍沢はギュッときつく目を瞑ると、白石の手をそっと離し脳外科へと戻っていった。 [newpage] 医局へと戻った藍沢は、まず西条の元へと赴いた。 部長室のドアをノックすると、すぐに入室を促す返事が聞こえたので、藍沢は中に入った。 「失礼します。 」 デスクに向かい仕事をしていた西条は顔を上げた。 「藍沢。 どうかしたか?」 「…お願いがあって来ました。 」 西条は訝しげに眉を上げた。 「…お願い?お前からそんな言葉が出るなんて珍しいな。 どうした。 」 「…実は、白石がストーカーに遭っています。 」 突然の藍沢の言葉に、西条は目を瞠る。 「…ストーカーだと?」 「はい。 ひと月ぐらい前からだそうです。 それで昨夜…帰宅途中に襲われました。 」 「襲われた?!それで、白石は?無事なのか?!」 「路地に連れ込まれそうになったところで、人が通りかかったので犯人は逃げたそうです。 大きな怪我はありません。 ただ、精神的にはかなり参っているはずです。 」 西条は、厳しい顔で考え込んだ。 「そうか…。 さっき、緋山が来てたのもその件か?」 「…はい。 犯人は、捕まっていません。 犯人が捕まるまで…仕事以外では俺が一緒に居ようと思っています。 ですから、白石と出来るだけ通勤を一緒に出来るよう、シフトの調整をしていただけないでしょうか?無理なお願いをしているのは承知の上です。 仕事に、決して支障は出しません。 ただ、あいつには…恐らくこういう事で頼れる人間はいないと思います。 藤川や橘先生には家庭があるし、人に迷惑を掛ける事を一番嫌う奴です。 …何より、俺自身が自分で白石の事を守ってやりたいんです。 お願いします。 」 そう言うと藍沢は、西条に向かって深々と頭を下げた。 藍沢のらしからぬ発言に、呆気に取られていた西条だったが、ハッと我に返ると、藍沢へと声を掛けた。 「…そうか。 わかった。 白石の一大事とあれば、俺も見過ごすことはできん。 橘と相談して、お前と白石のシフトを極力合わせるようにしよう。 」 藍沢は、自分の要望があっさりと受け入れられた事に面食らったものの、白石の為だからこそか、と思い至る。 藍沢は、彼女の人望の厚さを改めて垣間見た気がしていた。 「ありがとうございます。 よろしくお願いします。 」 再び深く頭を下げた藍沢に、西条はからかうように声を掛ける。 「お前が女の為に頭を下げるのを見る日が来るとは、思ってもみなかったな。 やっと素直になったか。 …白石の事、頼んだぞ。 」 最後の一言は、真剣な声音で言った西条に、藍沢はしっかりと頷いた。 「はい。 勿論です。 」 その後、仕事を終わらせた藍沢は急いで着替えると再び救命へと早足で向かった。 [newpage] 救命の医局には、橘と藤川がいた。 「おぅ!! おっつかれ~!! 」 藍沢は、いつも通りの藤川に何となくホッとした。 「あぁ、お疲れ。 」 藍沢の顔を見るなり、少し困った顔で橘が話し掛ける。 「藍沢、白石まだ起きてないんだよ。 薬の効果はとっくに切れてるはずだから、よっぽど疲れてたんだな。 様子見てきてやってくれるか?」 「はい。 わかりました。 」 橘に言われ、藍沢は再び仮眠室へと向かった。 仮眠室のベッドでは、先程と全く変わらない様子の白石が眠っていた。 点滴は既に外されていて、白く細い腕が布団から出たままになっている。 よく見ると、先程は気付かなかったが肘の辺りにも擦り傷がある。 その傷を見て、藍沢の心はギュッと搾られたように痛んだ。 先程同様にベッド横の椅子に腰掛け、同じ様に手を握る。 しばらくそうしていたら、白石がもぞもぞと動きだし、ゆっくりと瞳を開けた。 未だ覚醒しきらず、ぼんやりとこちらを見つめている白石に、そっと声を掛ける。 「白石…?大丈夫か…?」 すると、徐々に意識がハッキリしてきたのか白石の丸い瞳が大きく見開かれた。 「あ…いざわせんせ?…なんで?」 戸惑う様子の白石に、藍沢は彼女の手をギュッと握ると口を開く。 「白石。 …悪かった。 」 「え…?なにが…?」 突然の藍沢の謝罪に、白石は困惑しているようだった。 「緋山から聞いた。 ずっと怖い思いをしてたんだろ?あの時…ちゃんとお前の話を聞くべきだった。 聞いて…お前を守ってやるべきだったんだ。 すまなかった。 」 「どうして…?藍沢先生は、何も関係ないじゃない。 守ってやるべきだなんて、藍沢先生にそんな義務はないでしょ?昨夜の事は…確かに怖かったけど、自分の不注意が招いた事なんだから…。 」 白石は、話を聞いた緋山からこっぴどく説教をされていた。 誰かにストーカーされているような時に、一人になるなんて何を考えてるんだと物凄い剣幕で怒られ…抱き締められて、泣かれた。 随分と心配をかけてしまったのだと気付き、自身の浅はかさに涙が止まらなかった。 と同時に、緋山の気持ちが嬉しかった。 藍沢は、白石の口から出た、自分には何も関係ない、という言葉にチクリと胸が痛むのを感じていた。 だが、と思い直し口を開く。 「いや、あの時…お前が聞いてもらいたい話があると俺に言った時。 俺がきちんと話を聞いていれば、お前の側にいれば…こんな思いはせずに済んだんだ。 誰かに頼るのが苦手なお前が、俺に頼ろうとしてくれていたのは…よっぽど怖かったからだろ?」 藍沢の言葉に、白石の瞳からは涙がポロポロと零れだした。 その涙を拭ってやりながら、藍沢は続けた。 「あの時俺は…お前の口から、決定的な事を聞くのが怖くて、逃げたんだ。 」 白石は首を傾げる。 「決定的な事?」 藍沢が白状しようとしたその時、仮眠室のドアがノックされた。 そして、藤川が顔を出す。 「白石、起きたかぁ?」 白石は、慌てて藍沢に握られた手を離そうとするが、藍沢が離してくれないので どうすることもできずに頬を染めて俯いた。 そんな白石に代わり、藍沢が答えた。 「あぁ、起きた。 これから連れて帰る。 」 藤川は、満面の笑みで答えた。 「そうか。 白石の事、頼んだぞー!! 」 「あぁ。 …白石、起きられるか?帰ろう。 」 「えっ?でも、仕事がまだ…。 」 そう呟く白石に、藤川が思い出したように言った。 「あ、そうそう。 ちょっとシフトが大幅に変更になったから。 新しいシフト、橘先生がメールしておいたから確認しといてくれってさ。 取り敢えず、お前は今日はもう上がり。 明日は非番になったから。 」 藍沢は、困惑した表情で藤川の言葉を聞く白石の頭を撫でる。 「みんなお前が心配なんだ。 無理するなって事だ。 とにかく、今は周りに甘えておけ。 」 「…わかった。 」 未だ納得はいっていない様子だったが、周りが心配していることは十分に理解したらしく、白石は頷いた。 藤川は、そんな白石の様子を見ると満足げに笑い仮眠室を出ていった。 「よし、じゃあ帰るか。 着替えに行くぞ。 」 藍沢は握っていた白石の手を離し、すっと立ち上がるとベッドの白石に手を差し出した。 「ほら。 」 らしくない藍沢の行動に、白石は目を瞠る。 「えっ、大丈夫だよ。 一人で立てるよ?」 慌ててそう言い募るが、藍沢は手を引っ込めようとはしなかった。 「いいから。 掴まれ。 」 藍沢を見上げ、白石はそろそろと手を伸ばした。 その手をグッと掴むと、藍沢は彼女を立たせた。 と、その瞬間白石の身体はふらりとよろめいた。 藍沢は、すかさず身体を支え顔を覗き込む。 「大丈夫か?」 「う…ん。 ごめん。 力、入んなくて。 」 眉を下げて困ったように言う白石に、藍沢は背中を向けてしゃがみこんだ。 「…ほら。 」 「へっ?!い、いいよ!! 大丈夫だよ!! 歩けるから!! 」 「そんなにフラフラなのに歩かせられるか。 いいから、早くしろ。 」 「いや、でも…。 」 躊躇する白石を見て、立ち上がった藍沢は 「…なら、こっちだな。 」 それだけ言うと、ひょいっと白石を横抱きに抱き上げた。 「ひゃあっ!! ちょ、ちょっと!! お、降ろしてっ!! 」 慌てふためく白石に、ニヤリと笑った藍沢が告げる。 「背中に乗るのは嫌なんだろ?じゃあ、しょうがないだろ。 大人しくしとけ。 」 「だ、だから歩けるってば!! 」 真っ赤になってジタバタと暴れる白石だったが、藍沢はびくともしない。 「却下だ。 諦めろ。 」 うぅ…と小さく唸った白石は観念したのか、藍沢を見上げて呟いた。 「わ、わかった。 せめて、お、おんぶでお願いします…。 」 羞恥に頬を染め、潤んだ瞳の白石に至近距離で見上げられ、その破壊力に藍沢は息を飲む。 だが、理性を総動員させると何とか平静を装い、白石を床に降ろしてやると再び背中を向けてしゃがみこんだ。 白石は、そうっと藍沢の肩に手を置き体重をかける。 藍沢は、しっかりと白石の両足を抱えると、いとも簡単に立ち上がった。 「…落ちるぞ。 ちゃんと掴まれ。 」 藍沢に遠慮して少し身を起こしていた白石は、その言葉にギュッと目を瞑り意を決して背中に全体重を預けた。 「ねぇ、私重いでしょ…?大丈夫?」 「いや、軽すぎるぐらいだ。 もっと食え。 」 藍沢はそう言うと、そのまま仮眠室を出た。 医局には、橘、藤川、灰谷、横峯がいた。 灰谷と横峯は、ぽかんと口を開けて呆気に取られたようにこちらを見ていた。 橘は、すぐに察したように声を掛ける。 「白石、大丈夫か?」 恥ずかしさの余り、藍沢の後頭部に隠れている白石に代わって藍沢が答える。 「足元がフラついて危ないんで、更衣室まで連れていきます。 」 橘は頷くと、白石に声を掛けた。 「あぁ、頼む。 白石、無理するなよ。 明日は非番にしたから、ゆっくり休め。 」 白石は、パッと顔を上げると橘に向かって言った。 「橘先生…。 ご迷惑お掛けしてすみません…。 」 「何言ってるんだ。 お前は何も悪くないだろう。 とにかく、今日は帰ってゆっくり休め。 」 「そうだぞ、白石。 お前が責任を感じる必要なんて、これっぽっちもないからな!! 」 二人の言葉に、白石は涙を浮かべて頭を下げた。 「橘先生、ありがとうございます…。 藤川先生。 ありがとう…。 」 白石の言葉に二人は笑顔を見せ、藍沢を見て頷いた。 藍沢も、二人の顔を見て頷き返すと、 「…じゃあ、失礼します。 」 そう告げて、藍沢は白石を背負い更衣室へと向かって行った。 途中、すれ違うスタッフ達が驚いた顔で二人を見ていたが、藍沢は気にも留めず平然と歩みを進めて行った。 [newpage] 白石が着替えを終え更衣室を出ると、そこには藍沢が腕組みをして壁に凭れて待っていた。 出てきた白石の顔を見るなり藍沢は再びしゃがみこみ背中を向けた。 「…ん。 」 それを見た白石は、おたおたと慌て始める。 「いやっ、藍沢せんせ?!もう、いいから!! 自分で歩けるってば!! 」 しゃがみこんだまま、顔だけを白石の方へ向けた藍沢は、白石の言葉が聞こえなかったかのように再び促した。 「早く乗れ。 …それとも、やっぱり抱き上げた方がいいか?」 藍沢の言葉に、これ以上何を言っても無駄だと悟った白石は、諦めたように溜め息をつくと、そっと藍沢の背に体重をかける。 白石は、密着した身体から激しく鼓動を打つ自分の心臓の音が藍沢に聞こえてしまうんじゃないかと、気が気ではなかった。 先程同様軽々と自分を背負う藍沢に、感心した白石はぼそりと呟いた。 「藍沢先生、すごいね…。 」 白石の声に、ちらりと振り返って視線を寄越した藍沢が尋ねる。 「なにが。 」 「いや、力持ちだなぁって…。 私、おんぶなんてしてもらったの子どもの頃以来だよ。 昔はよく、お父さんにしてもらったなぁ…。 」 白石は昔を懐かしむように、ふっと笑った。 「…そうか。 」 そう答えた藍沢も、小さく笑みを浮かべていた。 暫し思い出に浸っていた白石だったが、すれ違うスタッフ達から遠慮なく浴びせられる視線に気付き、ハッと我に返る。 「~~~っ!! 」 白石は声にならない声を出し、藍沢の後頭部へと顔を隠す。 そんな白石が可愛くて、藍沢はくくっと笑いを漏らした。 衆人環視に耐え、何とか藍沢の車へと乗り込んだ白石は、助手席で顔を覆い唸っていた。 「あぁ~、もう、絶対院内中の噂になってるよ~。 恥ずかしい…。 」 そんな白石を見ながら、藍沢はふっと笑みを溢す。 「別に、そんなもん気にしなければいいだろ。 」 白石は、全く気にしていない様子の藍沢をキッと睨む。 その顔すら可愛いと思う自分はどうかしてるのかもな…とぼんやりと考える藍沢に、白石が語気を荒げて言った。 「もうっ!! 藍沢先生は、自分が注目を集めてるって事をもっと自覚した方がいいよ!! ファンとかいっぱいいるんだよ?!絶対その人達に睨まれるよ~。 」 藍沢は、いや、それは俺よりお前の方だろ、と内心で突っ込んだが、言っても無駄だろうと声に出すのはやめておいた。 藍沢は、じっと考え込むように黙った後、徐に話し始めた。 「…なぁ、白石。 」 「…ん?」 「暫く、俺の家に来ないか。 」 「…えっ?!」 「ストーカーの事、緋山から聞いた。 後をつけられたり、郵便物が漁られた形跡があったんだろ?」 「…うん。 」 「だとしたら、昨夜の事もあるし…家に一人でいるのは危険だ。 」 白石は、昨夜の事を思い出したのか、グッと両手を握り締め俯いた。 「…悪い、怖がらせたい訳じゃないんだ。 」 藍沢は、白石が握り締めた手の上から自らの手をそっと重ねてギュッと握った。 白石が、こちらを見上げる。 その瞳は潤んでいた。 「もう、お前をあんな目に遭わせたくないんだ。 だから、俺の家に来てほしい。 お前の事は、絶対に俺が守るから。 」 白石の瞳からは、堪えきれなかった涙が零れ落ちた。 「藍沢先生、どうして…?」 藍沢はふぅっと息をつくと白石の目を見つめて言った。 「心配なんだ、お前が。 お前には、笑っていてほしい。 」 白石は、藍沢の言葉に息を飲む。 その言葉の真意を図りかねて、困惑する。 「でも…私と藍沢先生じゃシフトも合わないだろうし、迷惑掛けちゃうよ…。 」 「西条先生に頼んで、犯人が捕まるまではお前とシフトを極力合わせてもらうよう頼んできた。 橘先生と相談して、合わせてくれるそうだ。 西条先生も、お前の事を心配して、快く了解してくれた。 」 驚いて目を瞠る白石に、藍沢は畳み掛ける。 「通勤を一緒にするのなら、同じ場所に住んでた方が効率がいいだろ?何より…お前、今は一人になるのは怖いだろ?」 白石は、黙り込んだ。 藍沢の言うとおりだったからだ。 昨夜の事を思い出すと、今でも身体が震えそうになる。 「だから、俺の家に来い。 」 藍沢に力強く言われ、白石は思わず首を縦に振っていた。 「あの…ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします…。 」 藍沢は、ホッとしたように息をつくと白石の頭をポンポンと撫でた。 「…良かった。 取り敢えずお前の家に寄って、当面の荷物を取りに行こう。 俺も一緒に部屋まで付いていくから。 」 「う…ん。 あの、ありがとう…。 」 藍沢は、優しく微笑んで白石に応えると車を発進させた。 その後、白石のマンションへと向かい、大きなトランクに着替えや生活用品等の必要な物を詰め込んだ。 藍沢は、玄関で待っていてくれた。 荷物を纏め終わり、マンションを出る前にエントランスのポストで郵便物を確認していた白石の動きが止まった。 それに気付いた藍沢が声を掛ける。 「白石?どうした?」 こちらを振り返った白石の顔は、真っ青だった。 慌てて駆け寄り、白石の手元を覗き込む。 その手には、数枚の写真があった。 「…貸してみろ。 」 黙ってこちらに差し出してきた写真の中身を確認する。 写真には、白石がマンションを出るところ、病院へと入っていくところ、そして…めぐり愛を出るところと、夜道を歩く後ろ姿が写されていた。 藍沢は険しい顔で白石に尋ねる。 「これ、いつ頃撮られたものかわかるか。 」 呆然としていた白石は、ハッと顔を上げるとジッと写真を見つめた。 「マンションを出る所は、多分…3日前ぐらいかな。 病院のは、2日前だと思う。 それから、これは…。 」 白石は、震える手で残りの2枚を指差した。 「…昨日の。 」 その言葉にハッとした藍沢は、白石の手を取ると反対の手で荷物を持って歩き出す。 「とにかく、ここから離れよう。 」 白石は黙ってコクンと頷くと、無意識に藍沢の手を握り締めた。 藍沢も、更に強く白石の手を握ると足早に車へと向かって行った。 車へと乗り込んだ二人は、ホッと息をついた。 白石がぽつりと呟く。 「藍沢先生が居てくれて良かった…。 一人だったら、どうしていいかわからなかった。 …ありがとう。 」 そう言って藍沢を見上げる白石の姿が、今にも消えてしまいそうに儚く見えて…藍沢は無意識に彼女を抱き締めていた。 「俺が傍にいる。 」 突然抱き締められ、白石は驚いたが、それ以上に藍沢の腕の中に居る事に安心感を覚えた。 「ありがとう…。 」 白石は力を抜いて藍沢に身を委ね、目を瞑って小さく呟いた。 [newpage] それから二人は、藍沢の家へと向かった。 走る車の中でも、藍沢は白石を安心させるように彼女の手を握り、車を停めるまでその手を離すことはなかった。 「お邪魔します…。 」 当然だが、初めて訪れる藍沢の自宅。 白石は緊張を感じながら足を踏み入れた。 「取り敢えず、ソファにでも座っててくれ。 腹減っただろ?冷凍のパスタかカップ麺ぐらいしかないが…。 」 藍沢の言葉を聞き、白石が持ってきた荷物をごそごそと漁りだした。 「あのね、作り置きしてたおかず、持ってきたの。 どれぐらい家に帰れないかわからないし…。 こんなので良ければ、食べない?」 トランクと別に、何やら大きなバッグを持っているとは思っていたが、それは白石が自宅で冷凍しておいた手作りの食品だったらしい。 忙しい中でも、きちんと食事を作っている事を知り、彼女らしいと笑みが溢れる。 「あぁ、戴く。 わざわざ悪いな。 」 白石は嬉しそうににっこり笑った。 「良かった。 温めれば、すぐに食べられるから。 キッチン、借りるね。 」 そう言うと、白石は手際よく食事の支度をしていった。 「美味かった。 ご馳走さま。 」 食べ終わった藍沢がそう言うと、白石はホッとしたように微笑んだ。 「良かった。 明日は、ちゃんと作るからね。 お世話になるんだから、それぐらいさせて?」 藍沢は、そんな必要はないと言おうとして、ふと思い止まる。 白石の性格からして、いくら藍沢が構わない、気にしないと言った所で、ここに居ることに申し訳なさを感じ、俺に迷惑を掛けていると思うのだろう。 だったら、したいようにさせてやった方が白石も気が楽なのかもしれない。 そう思い至った藍沢は、白石に向かって頷いた。 「…わかった。 だが、無理はしなくていい。 できる時だけでいいから。 」 藍沢がそう言うと、白石は嬉しそうに笑った。 「うん!! ありがとう。 大丈夫、無理はしないよ。 」 藍沢も、そんな白石にふっと笑みを溢すと、徐に白石に向き直った。 「なぁ、白石。 ストーカーの事なんだが。 」 真剣な口調で話し出す藍沢に、白石も居住まいを正す。 「…うん。 」 「さっきみたいに、写真が入っていたのは初めてか?」 「…うん。 初めてだった。 」 「あの写真から推察するに、ここ3日は毎日お前を付け回していたという事だろう。 自宅だけではなく、職場までばれている。 それに…、あのめぐり愛の写真はお前を襲う直前に撮ったものだろう。 」 白石は、気持ちを落ち着けるようにギュッと目を瞑りふぅっと息をつくと答えた。 「…そうだと思う。 めぐり愛を出て直ぐの所で、急に後ろから…羽交い締めにされたから。 」 「…お前を襲ったのは自分だと、主張するような写真を送ってくるなんて…相手は明らかに異常だ。 …犯人に、心当たりはあるか?昨日、何か気付いた事はあるか?思い出すのは辛いだろうが…。 」 気遣わしげに白石に問いかける藍沢に、白石は大丈夫だと言うように少し微笑んでから、話し出した。 「実は…その、気のせいかもしれないんだけれど、もしかしたら知ってる人なのかもしれない、って思ったの。 」 藍沢は、白石の言葉にバッと顔を上げた。 「心当たりがあるのか?」 「う…ん。 確証はないんだけどね。 」 そう言うと、白石は話し始めた。 「2ヶ月程前に大学の同期と再会したの。 A製薬のMRの担当が変わったんだけど、それが偶然にもその同期だったの。 その人は、学部は違ったけど私の友達の知り合いで…その、当時何度もデートに誘われたり付き合ってくれって言われてたりしてて、私には全くその気はないし、ずっと断ってたの。 そのうち、私の方が勉強や実習で忙しくなって顔を会わせる事もなくなったんだけどね。 けど…再会してから、翔北に来る度に救命に来てはまた食事やデートに誘われるようになって…。 断っても断っても来るから、困ってたの。 」 藍沢の脳裏に、二週間前に見かけた男の姿が甦る。 …あいつか。 あの時、随分と親しげだと勝手に思い込んでいたが、白石の方は迷惑していたという事か…。 勝手に勘違いして嫉妬して、その結果白石を危険な目に遭わせてしまった後悔が再び込み上げてくる。 もっと注意深くあいつの様子を気にしてやっていれば、嫌がっている事になど気付けただろうに。 自己嫌悪に陥り、黙り込む様子に気付いた白石が窺うように藍沢を見る。 「藍沢先生?どうかした?」 問い掛けられ、藍沢はハッと我に返る。 「いや、何でもない。 …それで?」 誤魔化すように言うと、白石に先を促した。 「うん…。 最近は、段々エスカレートしてきてて…毎日のように来るようになって、連絡先を聞き出そうとしてきたり、何故か私のシフトを知ってて、退勤する頃に職員通用口で待ち伏せしたりしてたの。 余りにもしつこいし、仕事にも支障が出るから…ハッキリと「こういう事をされるのは困る。 あなたの気持ちに応える事はできないから。 」って言ったんだけど。 「照れてるだけなんだろ?」って、取り合ってくれなくて…。 それで、帰る時間をずらしたり、なるべく顔を合わせないようにしてたんだけど…MRとして来られると、スタッフリーダーの私が対応せざるを得なくて…。 」 話を聞くに従って、藍沢の心にはその男への怒りがフツフツと込み上げてくる。 毎日、自分の時間を削って真摯に命に向き合い、激務をこなす白石の邪魔をするその男に腹が立って仕方がなかった。 MRという職業に就いていて、ましてや救命救急を抱える大学病院の担当であるのなら、救命がいかに激務であるかは当然知っているはずだ。 白石は、話を続ける。 「それでも、なるべく避けてたんだけど…その頃から、帰り道に誰かに付けられてるような気がしたり、郵便物を漁られてるような形跡があったりするようになって…。 もしかして、と思ったけど証拠がある訳じゃないし…。 でも、昨日。 羽交い締めにされた時に、香水の匂いがしたの。 …その人が付けているのと、同じ匂いがした。 それと、一言だけ「大人しくしろ。 」って呟いたんだけど、その声が…似てたの。 」 藍沢はジッと考え込むと、白石に尋ねた。 「その話は、警察には言ったのか?」 白石は、首を振った。 「ううん。 証拠がある訳じゃなかったから…。 」 「…そうか。 白石、明日もう一度警察に行こう。 俺も一緒に行く。 今の話と、この写真も証拠として提出した方がいいだろう。 」 「…うん、そうだね。 わかった。 ありがとう。 」 話はそこで終わりにして、二人とも入浴を済ませ寝る支度を整えた。 湯上がりの白石は、Tシャツとショートパンツというラフな格好だったが、ショートパンツからすらりと伸びる白くて綺麗な足に思わず目を奪われ、こいつはどれだけ無防備なんだと藍沢は頭を抱えた。 対する白石も、風呂から上がってきた藍沢がスウェットの下だけを履いて、上半身は裸のまま首からタオルを引っ掻けただけの姿だった為、目のやり場に困り赤くなって俯いてしまった。 その後、どちらがベッドで寝るかで一悶着あったが、お前がベッドで寝ろと言い張って一歩も譲らない藍沢に、最終的に白石が渋々折れる形で決着がついた。 「おやすみなさい…。 あの、ベッド取っちゃってごめんね…?」 藍沢は、まだ言うのかと苦笑した。 「いいから、ゆっくり寝ろ。 …おやすみ。 」 藍沢の言葉に頷くと、白石は寝室へと消えていった。 藍沢は、リビングのソファに転がると嵐のようだった1日に思いを馳せながら、眠りの世界に落ちていった。

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離人症ないしはおなじような感覚を味わったことのある方限定

襲 われる 夢

「うわ〜、僕、プロのミュージシャンとして仕事してるんだ〜。 」 音楽で(やっとこさ)ご飯が食べられる様になってから25、6年経つのかなぁ。 「なぁ。 」なんて曖昧な表現なのは、その最初の8年位は、ツアーの谷間だったり仕事が無かったりしたらアルバイトもしてたので、プロだったと言い切るにはちょいと恥ずかしいし、(正直な話)明日プロとして存在出来るか本当に分からない種類の職業なので、こんな言い方になってしまう。 今現在でも、プロとして仕事をしている自分の状況が夢の中での出来事のように思えてしまうようなヘンな感覚に襲われる。 そんな時、感謝の気持ちと供に、 必ず脳裏に浮かぶ3人の人物がいる。 「あの人たちに出会わなければ、絶対今の音楽家としての自分はなかったよなぁ。 」(この「なぁ。 」は曖昧な意味ではなく、深く深く物思いにふける様子を表す。 ) その3人とは、風間健典氏、素野哲氏、氏。 風間氏との出会いは、僕がフォークギターを本格的に始めた中学生の頃、同じ学校に通っていた妹さんの紹介で、ギターの家庭教師(といっても毎日のように氏の自宅におじゃましたのだが)を引き受けてくれたのが始まりである。 (と思うが記憶が定かでない。 後に修正の可能性あり。 ) 8つ年上で当時大学生だった風間氏は、今考えても感心するほど良く練られたカリキュラムでギター演奏を教えてくれた。 それだけではない。 練習そのものの仕方や他のミュージシャンとのセッションの仕方、レコード/ラジオから音楽を学ぶ方法、しいては、中古レコード屋さん(主に銀座、新宿、渋谷)回りの極意まで、音楽する方法の全てを教えてくれた。 ただのギター小僧だった僕は、それからのアマチュア時代10年以上を、風間氏の背中を見ながら歩むことになる。 その関係はまさにオビ・ワンとアナキンのようだった。 国府台高校の元文化委員長(同高校の文化委員にとって歴代の委員長は神様のような存在だった。 )でもあった氏は、真の意味で、僕のジェダイ・マスターだった。 同時に、風間氏は、ソウル/ジャズ系セッション・ミュージシャンの研究家でもあった。 特にDavid T. Walkerに関しては世界一のコレクターである。 壁や床一面に積まれた数えきれないほどのレコードをむさぼり聞く日々。 それが現在の僕を作る上でどれだけ大切な時間だったかは、どんなに言葉を尽くしても尽くしきれない。 また、フォークギターしか知らなかった僕にベースを弾く事を勧めてくれたのも風間氏だ。 ひょっとしたら風間氏は早くから僕にギターの才能が無いのを見抜いて、ベースへの転向を促してくれたのかもしれない。 風間氏と出会っていなければ、吉田美和のの2作は生まれなかったし、マービン・ゲイやバリー・ホワイトが亡くなった時に一晩中59(号泣)しなかったし、David T. Walkerと仕事をする幸せにも与れなかったろうし、なに、ドリカムの中村正人は存在していない。 そんな風間氏に、ある日、千葉県市川市にあるフォーク村のリーダーのもとへ連れて行ってもらう。 そのリーダーが素野哲氏だ。 つづく。 詳しくはを、プリーズ・チェッキラーウト! [その二] ロックトウサンシングルのの話題、スポーツ報知さんに大っきく取り上げられて、僕、ウレスィー。

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山ガールとテント泊! 準備を万全に!大人のテント等のギア選びオススメはこれだ!

襲 われる 夢

今回はその完結編です。 どうすれば最悪の事態を回避できるのか 状況をまとめると、「 ゲイと同じ屋根の下で二人きりで過ごす」ということになります。 しかも、僕は すでに3泊分の支払いをしてしまっていました。 ゲイと二人きりで3泊…自分の思慮浅さを嘆いても後の祭りです。 しばらくベッドの上で、心を落ち着かせます。 明日の観光のことはそっちのけで、この状況について考えを整理していきます。 起こり得る最悪の事態は何か。 もちろん 肉体関係を迫られることですよね。 しかし、こちらも大人の男です。 もし彼が強引に迫ってきたとしても、何とか振り払って逃げることはできるはず。 ということは、怖いのは不意打ちだけ。 つまり、寝込みさえ襲われなければ大丈夫。 ここまで考えると少し肩の力が抜けてきました。 同じ屋根の下で過ごすと言っても、当然寝室は別々です。 つまり、部屋の鍵をかけて寝れば、寝込みを襲われることもない。 なーんだ、心配しすぎだった。 そう思って鍵をかけようとドアに近づくと、なんと… 鍵がない!! なんと、鍵がありません。 ないというか、元々あったのに無理やり取られた形跡があります。 確信犯じゃないか。 また急に心臓がバクバクと鳴り始めます。 なんとか鍵をかける方法はないか考えました。 バックパック用のキーチェーンを使う、重い家具でふさぐ、など色々試してみましたが、ダメでした。 あぁ、終わった。。 なす術のないときに感じるこの無力感。 「お母さん、ごめんなさい」 「アーメン」 祈りながら眠りに これ以上考えても仕方がないので、諦めて寝ることにしました。 あれこれ考えたけど、ただの考えすぎだろう。 ゲイはゲイにしか興味ないって聞いたことあるし、大丈夫。 そう自分に強く言い聞かせ、ベッドに入ります。 緊張のせいか、暑苦しさのせいか、なかなか眠ることができません。 翌日も朝からバリバリ観光する予定なので、早く寝なければ。 羊が1匹、羊が2匹…徐々に瞼が重くなっていきます。 ・・・・・・ どうか何事も起こりませんように。 そう祈りながら眠りにつきました。 そしてドアは開く そして数時間後、浅い眠りについていると… ・・・・・・ ガチャッ ・・・・・・ …ん? 寝ぼけながらも、ドアを開ける音がかすかに聞こえます。 ぼんやりしていた頭が徐々に冴えてきます。 (…そうだ、今日はゲイの家に泊まってるんだった…) 急に心臓の鼓動が速くなります。 ドクンドクン (やめてくれ…来ないでくれ…) 布団をかぶり、寝たふりをします。 ・・・・・・ キーーーーッ ・・・・・・ ドアを開ける音がします。 心臓が激しく鼓動します。 ドクンドクン!ドクンドクン! (これはやばい!!戦わねば!!) そう思ってベッドから飛び起きて電気を付けます。 そこには… するとそこに彼の姿が… ・・・・・・ 彼の姿が… ありません。 あれ? おそるおそるドアの外を覗いてみても、誰もいません。 おかしいな… たしかにドアを開ける音が聞こえたんだけど… Tシャツをさわると、汗でびちょびちょになっています。 夢か幻か 何もないことを確認し、高まった胸の鼓動を落ち着かせ、再び眠りにつきます。 ・・・・・・ 朝、目を覚ましても、特に変化は見つかりません。 彼もまだ部屋で寝ているようです。 あれは夢だったのでしょうか、 それともあまりの恐怖心による幻聴だったのでしょうか。 今となってはわかりません。 ただ、その翌日も、何も起きませんでした。 それどころか、彼は色々気遣ってくれるナイスガイ(ゲイ)でした。 疑ってごめん。 そう心の中で謝っておきました。 新たな刺客 安心したのもつかの間、3泊目の夜、一人の男性がやってきました。 あれ、部屋は二つしかないはずだけど…と思いホストの男性に聞いてみると、 宿がなくリビングでいいから寝させてほしい頼まれたとのこと。 僕には何も言う権利がないのでなるほどねと返事。 関心はもちろん、「 彼もゲイなのか」ということ。 もしそうだとすると、今晩は二人のゲイと同じ屋根の下…。 しかも相変わらず部屋の鍵はかからないので、また同じような恐怖体験が待っているかも…。 ただ、もし僕が彼に「 君はゲイかい?」と聞くと、前編で書いた ホストの男性とのやりとりの再現みたいになるのでやめました。 後日談 ~それでも彼(ら)はゲイだった~ その夜も、何事もなく過ぎました。 ゲイに掘られるという人生最大のピンチは回避されました。 しかし最後の疑問が未解決のままです。 すなわち、新たに来た男性がゲイなのかどうか。 ホストの男性とはFacebookを交換しており、 彼の家を出た翌日にチェックしてみると… バッチリツーショットがアップされていました。 それを見て僕は確信しました。 2人ともゲイだ。 しかし、心優しいゲイだ。 邪魔者はただ立ち去るのみ。 あとは二人きりで楽しんでくれ… と、心の中でマッカーサーのようにつぶやきながらその場を去りました。 (完) ————- ブログランキングに参加してます。 記事が気に入ったら是非クリックをお願いします。 ————-.

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